コラム

2015-09-05

弁理士の立場から五輪エンブレム問題を考える


 この問題は、いろいろ難しい要素や問題を含んでいますが、知財の軽視が根底にあるように見えます。この点、STAP細胞論文問題などとも類似しています。
 (1) 問題を整理してみます。五輪エンブレムに関しては、著作権と商標権の双方を適用して考える必要があります。一言でいえば、商標法は商品等の混同を防止するためのビジネス上のルール、著作権法はパクリ(模倣)を防止するためのルールです。優先順位として、著作権をクリアし、さらに商標権をクリアすることが本来の順序です。
 しかし、商標権は「登録」が前提のため類似調査は容易ですが、著作権は「登録なし」で存在するため、類似調査は困難な側面があります。だからといって手を抜くことはできません。それ故に今回の問題が発生しています。
 個人的には、エンブレムが決定したら速やかに世界に公表し、例えば、3ケ月程度の経過を待って最終決定することが有効と考えています。実際の使用についてのゴーサインはこの後でよいと思います。つまり、より慎重な対応が必要であり、これは特許等の異議申立制度と同じ考え方になります。できれば、このような世界共通のルール作りも必要ではと感じています。
 なお、ニュースによれば、公表した場合、第三者に先に商標登録される虞れがあると、コメントを出した関係者がいました。しかし、日本(世界も同じとは思いますが)の場合ですと公表後の第三者の出願(法律上悪意の出願)は公序良俗違反や他の要件違反を理由に登録を阻止できると考えられます。仮に、登録されたとしてもパクリとしてバッシング(今回の例)を受けるでしょうし、企業であれば、コンプライアンスの欠けた企業として信用が失墜してしまいます。そのようなリスクをとる人がいるとは思えません。
 (2) 一方、デザイナー側の著作権軽視も問題です。ドライバーは、自動車の運転時に最低限守るべき必要なルールは道路交通法、守れなければ運転する資格はありません。デザイナーは、最低限守るべき必要なルールが著作権法です。
 他人の作品を「ヒント(参考)」にするのと「模倣」するのとでは、180°方向が異なります。特に、最近発覚した、使用態様例の写真について、ウェブ上の他人の写真の一部をそのまま流用するとともに、「Copy Light」の文字を削除していた件は、問題の大きさと深刻さを象徴しています。他人のバッグを黙って持ち去り、バッグに表示されていた持ち主の名前を消し、自分のバッグのように使用していることと何ら変わりません。エンブレム作者本人でないとしても、このような意識が内部にあることは残念です。
 (3) 今の時代、個人レベルでも知財意識を高めることが、より重要になっています。
 写真一枚でも、オリジナルの写真は、その人の思い入れにより、長い年月とお金をかけ、やっと辿り着いた場所の貴重な写真かもしれません。一方、今は、その他人の写真を指の操作一つで手に入れることができる時代です。著作権は、いわば、このようなオリジナルの写真(著作物)を保護する権利です。
 今回の問題は、日本の相対的な知財意識が低下しているようにも見えます。今の時代、我々個人レベルでも知財を正しく理解し、その重要性を認識しなければ、予想を越える遙かに大きな跳ね返りを受けてしまいます。

この記事を書いたプロ

みらい国際特許事務所 長野オフィス [ホームページ]

弁理士 下田茂

長野県長野市緑町1393-3 富士火災長野ビル5階 [地図]
TEL:026-228-3828

  • 問い合わせ
  • 資料請求

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

7

こちらの関連するコラムもお読みください。

<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
無料相談/無料講習

・長野オフィスでは、知的財産に関する相談については常時無料で行っていますので、お気軽にご相談下さい。・また、一般社団法人長野県発明協会(http://n-hatsumei.j...

料金/東京オフィス

 ◎ 長野オフィスの基本料金は、弁理士手数料が自由化される直前に設定されていた日本弁理士会の規定料金(手数料標準額表)に対して、概ね20%程度低く設定していま...

 
このプロの紹介記事
みらい国際特許事務所 長野オフィス 下田 茂

アイデアを特許にしたい、商品名を登録商標にしたい、などに対しトータルでサポートします(1/3)

 弁理士の中心的な仕事は、発明者や創作者に代わって特許を取得したり商標やデザインを登録すること。広く強い権利を獲得することが求められ、決して派手な仕事ではありませんが、発明者や創作者を守るための重要な仕事です。有名な発明家エジソンも、弁理士...

下田茂プロに相談してみよう!

信濃毎日新聞 マイベストプロ

通算30年以上の経験。1500件以上の特許を成立。

事務所名 : みらい国際特許事務所 長野オフィス
住所 : 長野県長野市緑町1393-3 富士火災長野ビル5階 [地図]
TEL : 026-228-3828

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

026-228-3828

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

下田茂(しもだしげる)

みらい国際特許事務所 長野オフィス

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる このプロに資料を請求する
プロのおすすめコラム
地方企業を活かす知財戦略…(18)
イメージ

 知的財産権の利用の仕方[Ⅲ]…リバース的利用  前回までの利用の仕方については、「自分(自社)の所有する...

[ 地方企業と知的財産 ]

 「真空」は本当に無なのか?
イメージ

 今年もお盆を過ぎました。時間の経つのが速いです。このへんで知財から離れてチョッと一息つきたいと思います...

[ 一息 ]

地方企業を活かす知財戦略…(17)
イメージ

 知的財産権の利用の仕方[Ⅱ]…ソフト的利用(ⅱ)  今回は、前回書いた知的財産権のソフト的利用の続きです。...

[ 地方企業と知的財産 ]

地方企業を活かす知財戦略…(16)
イメージ

 知的財産権の利用の仕方[Ⅱ]…ソフト的利用(ⅰ)  前回、知的財産権の利用の仕方としてハード的利用について...

[ 地方企業と知的財産 ]

地方企業を活かす知財戦略…(15)
イメージ

 知的財産権の活用の仕方(Ⅰ)…ハード的利用  前々回のコラムで、知的財産権は「利用」してこそ生きるものと...

[ 地方企業と知的財産 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ